サンパウロ市近郊には、いくつかの日系の高齢者福祉施設があります。

　今、それらの福祉施設で一般的な風景は、日本語を母語、母国語とする高齢者の介護を、非日系ブラジル人が担当しているということです。

　例えば、サンパウロ市に隣接するグアルーリョス市にある日系福祉施設で最も古い高齢者介護施設「憩の園」は、1958年に開設されました。公式に日本移民がブラジルに渡って50周年の年でした。

　ブラジルで生活してきた日本人を、言葉や習慣の異なる非日系ブラジル人が介護するという現状について、現在、憩の園の顧問である大浦文雄さん（87歳）に伺いました。

　2012年8月現在、憩の園の入居者総数は81名（男29、女52）。日本生まれは61名、ブラジル生まれは20名。
　平均年齢は87歳、最高齢は99歳、最も若年は67歳。
　特別養護の必要者は52名、準特別養護の必要者は12名、自分で生活できる人は17名となっています。

　大浦さんによると、今から25年ほど前まで、日系ブラジル人が日本で就労するブームが起きるまで、憩の園で介護の仕事をするのは、日本語で会話ができる日本人やその子孫である日系ブラジル人がほとんどだったそうです。

　それが、約25年前には、介護職員の給料が日本とブラジルを比較して（レートなどを換算して）、同じ仕事内容であるにもかかわらず、30倍近くの差があった時期があったそうです。そのため、多くの日系人職員が日本へ就労に行くという現象が起こりました。
　
　介護職員を補うため、新しく迎えたのが非日系ブラジル人の職員でした。

　当初は新しい試みで先行き不透明でしたが、日本の習慣や感性とは異なるブラジル人職員による介護は、期待以上に高齢者へのいたわりや親切心が発揮され、入居者からの評判は上々だったそうです。
　
　ただ、非日系ブラジル人の職員ということで、事務的な片言の日本語はすぐに覚えられても、本当に心の通じる日本語会話を習得できる職員は少ないのが現状です。日本語をもっとも自然な言語とする高齢者にとって、日本語によるコミュニケーション不足が、なんとも物寂しい点だということです。

　日本語の会話ができる日本人や日系人の慰問は、とても貴重なことになっています。

　日本の介護現場の専門職員からの目では、日本人を介護するブラジル人の働き方は、効率化できるのに効率化されていないように見えることもあるようです。それでも、ブラジル人ならではの温かな雰囲気は、効率に勝る部分もあるのは否めない点です。

　現在、日本でも特別養護老人ホームで日系ブラジル人や非日系ブラジル人が就職しているという話題を耳にします。ブラジルでも、やむをえなかったとはいえ、日本人の高齢者の介護をブラジル人が行うことで現場が成り立っています。

　ブラジルの日系福祉施設は、近い未来、ポルトガル語を母語とする日系人や非日系ブラジル人の入居がメンイになる時代が迫っています。日本の近未来の展望とは異なりますが、日本の介護現場で異なる言葉や習慣を持つ人に働いてもらうということは、前向きに捉えられる部分があることは、ブラジルの高齢者介護の風景が物語っています。

【憩の園の参照サイト】
http://www.k5.dion.ne.jp/~pochi-br/ikoi.htm

レポーター「大浦 智子」の最近の記事

• 持続可能な肥料から生まれる贅沢なコーヒー
• 世界でも唯一のヤシの木と混植して栽培されるお茶園
• インターナショナルなドーハにはためく万国旗

「ブラジル」の他の記事

• 持続可能な肥料から生まれる贅沢なコーヒー
• 世界でも唯一のヤシの木と混植して栽培されるお茶園
• インターナショナルなドーハにはためく万国旗