台湾で起きたインターネットの炎上について
2017.01.08 up
facebookで使われた写真を掲載する台湾メディア(PCの画面より)
新竹市にある私立光復高級中學(以下、略称の光復高中)で、2016年で12月23日に学園祭関連行事の仮装イベントが行われました。通常なら高校生らしい、微笑ましい光景が広がるのですが、2年生のあるクラスの仮装で、その後の状況が一変します。
その仮装とは、国際的に忌み嫌われる「ナチス」。
当日盛り上がったその仮装の写真を、生徒たちがfacebookでアップしたところ(現在は削除)、台湾最大の掲示板サイトに写真がコピペされ、瞬く間に新聞、テレビのニュースなどで大々的に報じられました。
それを受け、総統府は窓口にあたるイスラエル、ドイツの在台協会に謝罪を行っただけでなく、学校側にこの方面での教育を強化するよう指導を行い、教育部(日本の文部科学省に相当)も、最初に国際社会に向けて謝罪を行っただけでなく、学校に対し1年分の私学助成金200万元(約730万560円)の支給停止と優良指定校の認証取り消しを示唆しました。
*参考
http://www.storm.mg/article/205210
http://www.storm.mg/article/205228?utm_source=Yahoo&utm_medium=相關報導點擊&utm_campaign=Y!News_RelatedCoverage
http://www.chinatimes.com/realtimenews/20161223005881-260408
イスラエル在台協会のfacebookより
総統府から謝罪を受けたイスラエルとドイツの在台協会も、公式facebookのサイトで遺憾の意を表しただけでなく、こうしたことが出てきてしまう現状に対する様々な感情を短い文章に込めました。
*参考
http://www.storm.mg/article/205146
日本でも、2016年のハロウィン時に欅坂46がハロウィンの仮装に用いた衣装が「ナチスの制服に酷似している」ということで、日本だけでなく、世界的にも話題になり、炎上した事例がありました。この件では、プロデューサーの秋元康氏と所属レコード会社が謝罪のコメントを残し、終息したようです(見ている限りですが)。
*参考
http://bylines.news.yahoo.co.jp/shivarei/20161031-00063914/
ドイツ在台協会のfacebookより
日本との大きな違いを挙げると、光復高中のは、「ナチス」の世界観を「これでもか!」と言わんばかりに再現していることでしょうか。
下記URLの動画を見ると、入場時に、進行役が「ヒトラー様のお通りだ!」、「生徒諸君、(ヒトラー様に)直ちに敬礼せよ!」、「敬礼しないと戦車でひき殺すぞ!」、「さもなくば毒ガス室行きだ!」とあおっています。
更に、段ボール製の戦車に乗り込み、ナチス式の敬礼を行っているヒトラー役はそのクラスの担任で、歴史科を教えている教師。ということで、イスラエルとドイツの在台協会が声明文を出したのも頷ける光景が広がっています。
https://www.youtube.com/watch?v=IU5YalY1CuE
このナチスの仮装が行われた背景には、「生徒の意見、独創性を尊重して」という学校側の判断があるようです。
この仮装イベントで、学校が各クラスに出したテーマは「古今東西の歴史上の人物」。
10月に話し合った際、担任教師は「アラビア文化」を提案したのに対し、生徒側から出たのは「ナチス」。最終投票で「ナチス」が選ばれ、計画書を学校の行事を管理している学生事務部に提出しました。
決定後、生徒たちは担任教師から「ナチス」は今も論争があるテーマであると説明を受けただけなく、時間をかけ相関する映画、文献などで分析、議論、研究を行いました。それを踏まえ、「ナチスにも紀律や忠誠、信念といった美学があったが、それが悪い方向へ進み、残虐な暴力集団と化し、第二次世界大戦を生んだ」誤った歴史だと認識し、加えてヒトラーを崇拝し、虐殺を奨励しているわけではなく、政治的意図も全くないということで、学校側も止めなかったそうです。
その結果、当事者たちが予想していなかった(であろう)大炎上。
学校は、24日午後に記者会見を行い、この件について謝罪しただけでなく、25日には校長の引責辞任も発表されました。
*以上、12月25日付蘋果日報A1面、12月26日中國時報A1面、下記URLを参考にしました
http://www.storm.mg/article/206032
11月7日のフリーペーパー”U-paper”より
炎上ついでに思い出したのが、上の写真の一件。
台湾で高い人気を誇る歌手の蔡依林(ツァイ・イーリン)が2016年10月31日に発表した新曲「戀我癖 EGO-HOLIC」のMV(下記URL参照)で、台北市立中山女子高級中學(以下、中山女高)の制服を着た生徒達が主人公の女性に暴行を加え、いじめるシーンが出てきます。これが中山女高の卒業生、PTAをはじめとする関係者の怒りを買い、学校側も「本校の名誉を著しく毀損するものであり、不快感をもよおすものである。速やかな動画の削除と公の場での謝罪を求める」旨の声明文を学校のホームページに出しました(現在は削除)。
https://www.youtube.com/watch?v=bKR1p0SFdNc#t=0h0m0s
学校が声明文を出す前に、愛校精神が強い中山女高の関係者たちはYouTubeにある公式MVと、蔡依林とMVの陳星翰(チェン・シンハン)プロデューサーとの謝宇恩(シエ・ユィウェン)監督のfacebookのサイトに不快感を露わにするコメントを一気に書き込んだため、炎上状態に陥りました。
それを受け、製作者側はまず上のURLの動画にあるとおり、学校の名称と学籍番号が刺繍されている部分にぼかしを入れ、MVを残し続けました。
しかし、ぼかしを入れても、学校名が容易に特定される状態にあり、意味をなしていないため、炎上が収まることはありませんでした。
炎上に対し、蔡依林のファンも黙っているわけがなく、前出の炎上先のコメント欄で、中山女高とその関係者をdisる「反撃」に出たため、炎上が更なる炎上を招く結果になりました。
その後、学校の声明文を受け、製作者側が自身のfacebookのサイトや所属会社のサイトなどで謝罪しただけでなく、 MVも全部ぼかしになりました(下記URL参照)。
https://www.youtube.com/watch?v=a44BAm1E1T8#t=0h0m0s
日本で、これとよく似た事例は2014年にTBSで放送された「ごめんね青春」の第3話の騒動でしょうか。生徒から「お姉さん、この問題……」と聞かれ、元グラドルという主人公の義理の姉が、笑顔で「それは無理、あたし、〇〇だから」と断るシーンがありますが、セリフの「〇〇」には、実在する東京都内の学校名が出てきます。
それを見た当該校の校長がTBSに抗議。
その後、TBSがホームページで謝罪文を掲載しただけでなく、動画配信サービスでも、そのシーンをカットする対応を行いました。
*参考
http://www.appledaily.com.tw/realtimenews/article/new/20161106/983070/
http://www.sankei.com/premium/news/141112/prm1411120006-n1.html
http://www.tbs.co.jp/gomenne_tbs/owabi.html
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/154687
蔡依林のMVの件は、中山女高側が「生徒たちが学習に専念できる環境を守りたい」、「(動画が残り続けることで)自校の関係者が、ののしったりののしられたりする光景は見たくない」という考えから、声明文を出したことで、「(製作者側へ警告を発する)目的を果たした」とし、取材要請にも「声明文以上に(本校から)申し上げることはございません」と対応し、断ってきたことから終息に向かい、日々続出するニュースの中に埋もれていきました。
一方で、製作者側は学校の声明文が出る前に取材に応じ、陳星翰氏と謝宇恩氏が潔く反省の弁を述べているのに対し、陳星翰氏のマネジャーが「作品は特定の学校を指し、意図するものではない」と無念をにじませた(と見える)コメントを残したことで、学校関係者の怒りの火に油を注ぐことになりました。
全部ぼかしの公式MVも、画面に謝罪文が掲載されているとはいえ、左上半分の小さな枠でバツ印をクリックしたら消えるものであると同時に、コメント欄には今も「中山女高、テメーら何様だよ」といった「便所の落書き」的書き込みが残っています。
そして、報道で注目度が上がり、蔡依林の新曲のPRの場として機能していることから、「炎上ビジネス」として捉えられても仕方がない状況になっています。
炎上後、公式MVに全部ぼかしをかける前のMVが、第三者に再度YouTubeにアップされているにもかかわらず、それに対する削除要請の対応も行っている様子がなく、12月27日時点で学校が声明文に記している「公式MV動画の削除」を行っている様子もありません。従って「便所の落書き」状態のコメント欄はそのまま残っているだけでなく、書き込みも続き、12月27日の1時(台湾時間)時点で3,387件にまで達しました。
中山女高の関係者の中には、この騒動を冷静に受け止めている人もいますが、この製作者側の対応に対し「誠意が全く感じられない」として、憤慨している人も多くいます。
以上、台湾で起きたインターネットの炎上について、長々と記しました。
日本の例と比べながら考えると、台湾は「事後の処置法」と言いますか、「ツメの部分」が非常に甘いように見えます。
外交問題にもなりかねない「ナチス」の仮装による炎上は、さすがに台湾社会特有の大らかさからくる「なあなあ」では済まされないと思いますが、今後どのような展開を迎えるでしょうか。
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