台湾

台湾:台北

小川 聖市(オガワ セイイチ)

職業…日本語教師、ライター

居住都市…台北市近郊の新北市(台湾)

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12月11日の説明会で歌を披露する甲子慧さん

12月11日の説明会で歌を披露する甲子慧さん

 12月11日は、新北市三重區の三重綜合體育前の広場で開催されました。こちらは、新北市第三選挙区選出の余天立法委員の主催で行われ、会場には蔡英文総統、行政院の蘇貞昌院長、桃園市の鄭文燦市長、地域選出の新北市議会議員が訪れました。

 蘇貞昌院長と鄭文燦市長の説明は、過去2回聞いたものとほぼ同じでした。

 その一方で、蔡英文総統は前週と少しやり方を変えました。聴衆に年齢層が高い人たちが多くいると感じたのか、下町のような土地柄を重視したのか、頼清徳副総統のように台湾語を織り交ぜて話していました。内容は基本的に同じだと見られますが、聴衆や反応を見て演説内容を工夫できるところに、蔡英文総統の成長というか、懐の大きさを感じました。

 個人的には、冒頭の歌のゲストで登場した歌手・甲子慧さんが岸知恵子さんの「知恵っ子よされ」を日本語で歌っていたのが強烈に印象に残っています。


12月17日の説明会で最後に演説を行う蔡英文総統(演台の前)

12月17日の説明会で最後に演説を行う蔡英文総統(演台の前)

 住民投票の前夜の12月17日の集会は、総統府前の凱達格蘭大道に設けられた特設会場で行われました。

 こちらは、新竹市の林智堅市長、基龍市の林右昌市長といった自治体の首長をはじめ、蘇貞昌院長、頼清徳副総統、蔡英文総統といった民進党の幹部クラス、台北市、新北市の選挙区選出の立法委員、市議会議員全員来場し、翌日に向けて機運を高めていきました。

 最後に登壇した蔡英文総統は、過去2回見たときと同じような演説を行いました。印象に残っているのは、さりげなく出てきた「相手のことをあれこれ言うのは止めましょう」という言葉。2016年に蔡英文総統が初当選してから、民進党の選挙戦略が変わり、ライバル陣営のことを悪し様にけなすことがほとんどなくなり、批判するときは明確な根拠を示した上で行うという姿勢になってきていますが、この時もそれは全く変わっていない感じでした。


登壇する学生たち(2021年12月4日撮影)

登壇する学生たち(2021年12月4日撮影)

 住民投票の結果は4つの案ともに「反対」となり、民進党の望んだ結果となりました。台湾でも日本でも様々なデータが出され、分析がなされているようですが、こちらでは私が見ていて気になったものを中心に紹介します。

 まずは上の写真。

 学生たちが街に出て、歩く人々に「反対」を訴えかけていましたが、その時の人々の声を拾い、反応や感想を舞台で話していました。その中で、「チラシをぶっきらぼうに受け取った人が無言で去っていき、しばらく経ってから自分たちに水を持ってきて、差し出してくれた」という話があり、「これが台湾の魅力だと思った」と力強く語るところがありました。今の民進党には、若い人たちの声をしっかり拾う力と度量があるというのを証明しているようにも感じました。


林靜儀候補(2021年12月4日撮影)

林靜儀候補(2021年12月4日撮影)

 説明会の別の側面は、1月9日に実施が決まっている補欠選挙とある罷免投票に向けた活動です。

 補欠選挙は、10月に台中市第二選挙区の台湾基進所属の陳柏惟立法委員が罷免投票で罷免が成立したことによるもので、医師の林靜儀氏が民進党の公認候補として出馬しています。林靜儀候補は、12月の説明会で蔡英文総統が来場する場で2回演説をしました。

 罷免投票は、台北市第五選挙区の林昶佐立法委員に関するものです。林昶佐立法委員は、前時代力量所属で現在は無所属。2020年の選挙時は時代力量を離党していたため、民進党の支援を受けました。多くの方は、メタルバンド「CHTHONIC」のボーカルの「フレディ・リム」といえば分かるのではないでしょうか。こちらも林靜儀候補と同じところに来場し、自身の政治活動の成果を伝えました。

 この二人の演説は、 SNSの同時中継などで配信されており、今回の住民投票が絶好の宣伝の舞台となった格好です。


新北市議会の戴瑋姍議員(2021年12月10日撮影)

新北市議会の戴瑋姍議員(2021年12月10日撮影)

 各地域の立法委員が行った説明会には、当該地域で活動している地方議会の議員も会場を訪れました。上の写真の戴瑋姍議員は、新北市第四選挙区(板橋區)選出の市議会議員ですが、この時の説明会を主催した頼品妤立法委員と同じく、2014年のひまわり学生運動時に中心で活動していた方でもあります。

 今年11月に統一地方選挙が予定されていますが、説明会はその予行演習であり、成果発表の一面もあったように感じました。また、戴議員や頼立法委員のように若くて優秀な人材は積極的に登用するという姿勢をアピールする絶好の場にもなったように見えました。議員たちにとっても、この場で自身の課題が出て、選挙に向けた準備につなげることができるので、民進党は一石二鳥のように捉えているように見えてしょうがなかったです。

 選挙区毎に細かいデータが出てきましたが、こちらも選挙対策につながる資料になりうるものを提供してもらった格好になり、民進党側の目線で考えると、この住民投票は都合のいいことばかりのように見えました。

 反対に、國民党は厳しい現実を突きつけられただけでなく、11月の選挙に大きな影響をを与えかねない状況を作ってしまいました。過去の國民党なら、自分たちに比較的有利な状況を作り上げて住民投票に持ち込んだ格好で、このような完全な取りこぼしは考えにくく、仮に取りこぼしたとしても、相手陣営に寸分の隙を見せることもほとんどなかったので、凋落ぶりが際立ったように感じました。

 この住民投票の結果、9日の補欠選挙と罷免投票、今年の統一地方選の結果にどのような影響を与えるでしょうか。今から注目したいところです。


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