台湾の高校バスケHBL 涙の師弟対決
2015.01.13 up
試合開始!
以前も触れましたが、昨年12月29、30日に高雄で開催された高校バスケHBLの男子2次予選を観戦してきました。最後の2日間だけですが興味深い対決があったので、みなさんに紹介します。
台南市私立新榮高級中學(以下、略称の新榮高中)VS高雄市私立高苑工商職業學校(以下、略称の高苑工商)という対戦カードですが、高苑工商には過去下記URLで紹介した田本玉ヘッドコーチ(以下HC)が18年コーチを務めた新榮高中を離れ、昨年7月から就任。HBLでは初めてとなる「師弟対決」に注目が集まりました。
http://www.ima-earth.com/contents/entry.php?id=2012110161751
その田HCの移動後、両チームは対照的な道を歩んで行きました。
高苑工商は、過去にHBLで準優勝したこともある強豪ですが、ここ3年は予備予選敗退。低迷から抜け出せない状態でしたが、経験豊富な田HCが就任してからは、全体的に未熟な部分は目立つものの、選手の成長に合わせて結果が出はじめ、4年ぶりに2次予選まで上がってきました。
田本玉HC
一方で田本玉HCが離れた新榮高中は、当初田HCの下でアシスタントコーチを務めていた方がチームを引き継ぎ、9月までは新人戦に相当する大会で優勝するなど、結果を残していきました。
ところが10月に入り、学校の方針で新しいHCが就任したことで状況が一変。そこまでコーチを務めていた方はHBLではコーチ登録もされず、実質解任された格好になりました。
その結果、新コーチと過去のやり方に慣れた選手たちは全く噛み合わず、意思の疎通がほとんどない状態に陥っただけでなく、最悪なことに11月下旬に開催された1次予選では、それが誰が見てもはっきり分かる形で現れました。
前年度8位の新榮高中は予備予選が免除され、1次予選から登場しました。緊張感漂うHBL初戦で、新コーチが第3Qを第4Qと間違え、3回あるタイムアウトを全部使い切ってしまったため、試合終了間際の競り合った場面でタイムアウトを使って相手の流れを断ち切る戦術が使えず、敗戦を喫したことで、選手たちの不満が最高点に達しました。
それでも、1次予選はどうにか突破できましたが、選手たちの新コーチへの不信感は更に強まり、選手たちを心配して応援に駆けつけた前のコーチが客席から指示を送る光景とその背景をマスコミに紹介されるまでに至りました。
一見、普通のハーフタイム時のように見えますが、選手たちは前のコーチの方の話を聞いています
その約1ヶ月後に行なわれた2次予選では、新榮高中、高苑工商とも同じA組に入り、対戦前の成績は共に1勝3敗(注:2次予選は12チームを2つの組に分け、総当たりのリーグ戦を行ないます)。同じ1勝3敗でも、両チームは対照的な歩みを見せました。
高苑工商は、優勝候補と呼び声が高いチームに続けて敗れたとはいえ、僅差まで追い上げる健闘を見せるなど、徐々に調子を上げていったのに対し、新榮高中は、調子が上向きにならないだけでなく、敗戦を重ねるにつれて新コーチと選手の関係はますます疎遠になり、チームが一つにまとまらない最大の要因になっていきました。
両チームが節目の大きな変化を迎えてから約5ヶ月。
全く正反対の状態で師弟対決を迎えることになりました。
慣習になっている相手チームのコーチへのあいさつ、その後……
両校の応援団が客席を埋め、お互いが刺激し合う応援合戦が繰り広げられる中で始まった試合は、昨年のU-18アジア選手権の台湾代表選手が在籍し、経験も豊富な選手が揃う新榮高中が終始優位に立ち、81-71で勝利しました。
かつての教え子たちと抱擁を交わす田本玉HC(右)
試合終了後、HBLでは選手たちが相手チームのベンチへ赴き、コーチに一礼し、あいさつする慣習がありますが、これまでとは違うものが見られました。
あいさつ終了後、新榮高中の選手たちが母親に甘える子供のような表情でゆっくり歩み寄り、田本玉HCと抱擁を交わしました。その時、田HCは涙を流しながら、かつての教え子たち一人一人に、「アンタたちはいつまでもアタシの教え子だからね! しっかり頑張んなさいよ!」と優しく声をかけ、涙を流している選手にはその涙を手で拭ってあげる愛情を見せました。
試合を振り返ると、田HCにはいつもなら絶対にしない行動がいくつかありました。
激しいファールで自チームの選手が倒され、なかなか立ち上がってこなかったとき、新榮高中の選手に「ウチの選手に何てことするんだ!」と怒鳴り、言われた選手が「えっ、何でオレなんだよ……」という感じで戸惑う姿がありました。
また、新榮高中の応援席が自チームの選手のフリースローを妨害しようと騒音を出していたときも、オフィシャルズテーブルに出向き、止めさせるようお願いもしてました。
これらは、HBLではよくある光景で、田HCはいつもならそのまま流すのですが、この試合では過剰気味な反応を見せていました。
田HCは、かつての教え子たちの苦境を人づてに聞き、自身もその様子を会場で見ているので、大変心を痛めていました。それだからこそでしょう。様々な感情を排し、心を鬼にして試合に臨み、試合終了まで貫きました。
そんな両者の姿は、「巨人の星」で描かれている父・星一徹と息子・飛雄馬の親子対決を再現しているかのようでもあり、他者の介入を一切許さない「お別れの儀式」を行なっているかのようにも見えました。
この試合で勝利した新榮高中は、翌日の敗者復活戦にまわりましたが、勝ち上がるには2勝しなければならず、非常に厳しい道のりが待っています。
師が用意した試練を乗り越え、本当の意味での「お別れ」を済ませた選手たちは敗者復活戦でどんな姿を見せるのでしょうか。
次回へ続く
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2 - Comments
間根山 勝仁より:
2015 年 01 月 20 日 17:44:40
初めまして。
いきなりのコメント申し訳ありません。
台湾のスポーツ事情を知りたくネットを拝見していたところ
小川さんの記事を見つけ、興味がありコメントさせていただきました。
台湾のサッカー、バスケ、野球事情を教えていただいたきたいと思っています。
お返事お待ちしています。
筆者より:
2015 年 01 月 22 日 00:57:58
間根山 勝仁 様
はじめまして
コメントありがとうございます。
高校バスケのHBLは、日本の高校生スポーツと相通ずるものを感じ、惹かれているので紹介しております。
台湾のスポーツ事情に関しては、こちらで引き続き紹介していきますので、今後もよろしくお願いします。
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