奨学金授与式で触れた「台湾の社会問題」
2023.08.24 up
会場の様子
過去何度か高校生のスポーツを紹介していますが、バスケットボール(H B L)の注目度が元々高いことに加え、バレーボール(H V L)も2010年代後半から決勝トーナメント開催時に規模の大きい会場を使い、全試合テレビ中継(5、6位決定戦以外)も実現するようになりました。
それに伴い、スポンサー企業も登場するようになり、大会開催の大きな支えになっています。この企業は、3年前から、選手たちに奨学金を授与するようになりましたが、どのような形で支援しているのか気になって様子を見に行くことにしました。
そこで触れたのは、簡単には見えてこない社会問題やさまざまな事情でした。
奨学金の審査に携わった人たちの記念撮影
この奨学金を設けているのは、アメリカの健康食品企業・WEIDER(台湾では「威徳」)です。高校生の選手たちを支援するようになったのは、スポンサー企業に加わってから、選手たちの置かれている環境や事情を知るようになり、未来を担う若い世代を応援し、社会に還元したいという思いからだそうです。
そのため、奨学金を受け取れる選手の選考にも、特徴があります。
単に選手として技能に優れているだけではなく、学業でもしっかりと成果を上げている、様々な困難を乗り越え、競技と学業を両立させている選手が選ばれています。蛇足ですが、学業の成果には、英語や日本語の資格を持っていることも評価に加味されるそうです。
選手たちの映像
授与式と来賓のあいさつが繰り返される中で、選手のドキュメント映像が挟まれてくるのですが、これを見て本当に驚きました。
・花蓮の高校のバスケットボール選手。高校卒業後は家の事情で選手は引退し、大学は体育大学に進学してスポーツトレーナーを目指す
・台北市内の高校のバレーボール選手。下校時に父が運転する原付で移動中、飛び出して来た子犬を避けようとして転倒し、骨盤骨折の重傷を負い、出場はおろか練習もできない状態に陥り、そのまま卒業を迎える
・学校の方針で部が解散になり、遠い高雄の高校の新創部のバスケットボール部に転籍。他にも地方から台北などの都市圏の学校の部に入るが、競技の継続や通学に様々な費用がかかっている
等々。
一番感じられたのは、台湾特有の地域格差。
都市部とそれ以外だけでなく、北部と南部、東部と西部の違いで、競技をする環境、学業の継続などに影響が及び、それが経済格差、社会の両極化にもつながっているという印象を受けました。
プロバスケットボールリーグ・Pリーグ+の陳建州CEO(現在C E O 職は休職中)
式の中で印象に残っているのが、プロバスケットボールリーグ・Pリーグ+の陳建州CEOのスピーチです。陳CEOは、自身の少年時代のことを振り返りながらスピーチを行い、会場にいる選手たちを励ましたのですが、その話を聞いて驚きました。
陳CEOのお父さんは、1994年4月26日の愛知県で起きた中華航空機墜落事故で亡くなり、その後母に育てられたものの、情緒不安定でケンカ沙汰の騒動を起こし、警察に身柄を拘束されたそうです。そこへ迎えに来たのが祖父で、祖父が周りに頭を下げる姿を見て、改心し、バスケットボールに打ち込むことを決意しました。
中学時代からバスケットボールの選手として注目されていて、強豪校のチームに在籍していたこともあり、代表選出までに至らなかったものの、プロリーグでプレーするまでになりました。引退後は、芸能活動も行い、知名度を上げていきましたが、2020年のPリーグ+設立に合わせ、CEOに就任し、リーグを運営し、盛り上げる役割を担っています。
陳CEOは、その少年期を振り返り、「自分の起こした不祥事で、年老いた祖父が、若くて体力があり余っている自分のために頭を下げさせてしまったことが本当に申し訳なく、何がなんでも奮起しないといけないと思った。(子供の頃から続けてきた)バスケットボールがあったからこそ、その苦境からここまで来ることができた。だからこそ、ここに来ているみんなには、どんなことがあっても腐らず、あきらめないで頑張ってほしい」と選手たちを激励しました。
そのついでに、「この中で高校2年生、いる?」と問いかけ、「あ、少ないけどいるね。いいかい、一番誘惑が多くて心理的に不安定な時期は2年生なんだぞ。オレがそうだったからな。だから、ここにいる2年生諸君は気をつけるんだぞ!」とユーモアを交えた激励もしていました。
最高額の奨学金の授与式の様子
奨学金も、金額が分かれていて、最高額は10万元(約45万6518円)で、H B L、H V L各7人しか受け取れないものです。授与された選手たちには、壇上で簡単なインタビューが行われ、選手たちからは、指導者や周囲の人たち、選んでいただいたことへの感謝の言葉が出てきました。
台湾・威徳は、若い世代への投資、未来の社会の発展につながる投資としてこの奨学金を捉えていて、積極的に行なっていく方向です。特に、この3年間は新型コロナウイルスの感染対策で、様々な不自由を強いられ、競技生活、学校生活に大きな影響が及んだことで、支援が必要な選手も増えているだろうということで、支援を強化したいと考えているようです。
この大人たちの願い、選手たちに届いているでしょうか。
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