モザンビークに見る外国語が公用語になるという事 - 1
2015.09.28 up
今、日本の公教育では低年齢での英語教育の導入が騒がれている一方、決して日本語教育を主流とする教育方針を変更する話には及びません。
ある土地が自分たちの話してきた言語ではなく、言語体系のかけ離れた外国語になるということがどういうことかは、ポルトガル語諸国の国々を見渡して比較してみると見えてくることがあります。
例えば、ポルトガル語を公用語とするポルトガル、ブラジル、モザンビークの言語事情の比較は大変興味深いものです。
モザンビーク出身のアントニオ・アローネ・マイアさん
「アフリカを学術的に研究するために、ブラジルは理想的な場所だと思います」
と強調するのはモザンビーク人のアントニオ・アローネ・マイアさん(41歳、モザンビークのテテ州カオラ・バッサ出身)。アントニオさんはブラジルのサンパウロ大学大学院で社会人類学においてアフリカ研究を行ってきました。
「モザンビークやアフリカに関する文書は、アフリカ以外にたくさんあるんすよ」
と言うアントニオさんはブラジルでは水を得た魚のように研究生活を送ってきました。
ブラジルにいる人々にとっても、複雑で未知なアフリカ事情を知るために、ブラジルで暮らすアフリカの人々に話を聞けるチャンスはとても貴重です。
アントニオさんによると、アフリカ諸国の一つであるモザンビークの公用語は、ブラジルと同じポルトガル語です。モザンビークは1975年に独立して以降、公教育はポルトガル語による授業で統一されています。モザンビークのポルトガル語はポルトガルに近いそうです。
赤く塗られた9カ国がポルトガル語諸国共同体の加盟国(2015年現在)
モザンビークやブラジルは、現在、世界九カ国が加盟するポルトガル語諸国共同体の一つで、それらの国の間を渡航する感覚は、地理的にこそ離れているものの、ポルトガル語が通じるという点で、現代の日本なら北海道と九州を行き来するようにとても心理的な抵抗が低いそうです。
ただし、違いもあります。その中の一つが言語に関する事情です。ブラジルはブラジルで生まれた多くの人が、海外からの移住者の子孫も含めて、大多数が第一言語か第二言語がポルトガル語になっているように見えます。一方、モザンビークは、ポルトガル人がモザンビークに植民を開始してブラジルと同じ500年以上を経たにもかかわらず、土着の人々のポルトガル語の位置づけは第二、第三、第四言語であると言います。人口に占める割合の低いポルトガル系モザンビーク人を除き、多数派の先祖代々アフリカ土着の人であるモザンビーク人は、バンツー諸語が第一、第二言語であるということです。アントニオさんの場合、第一言語は母方の言語であるdema語、第二言語は父方の言語であるnyungwe語、第三言語が学校教育で受けたポルトガル語、第四言語が英語です。自らのアイデンティティーを感じる心の言語はやはりバンツー語です。
モザンビークは一つの州内に5、6種類のバンツー語が存在し、全国で20種類以上のバンツー語が今も日常的に話されているということです。国の中部、北部で話されるバンツー語は南部では通じず、逆も然りです。一昔前の日本で、青森弁は鹿児島で通じないと言ったような感覚だと思います。同じバンツー語族の言語での意思疎通が難しかったのを統一したのが、モザンビークの場合、旧宗主国であるポルトガルのポルトガル語でした。
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