ブラジル

ブラジル:サンパウロ

大浦 智子(おおうら ともこ)

職業…フリーランス
居住都市…ブラジル国サンパウロ市

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ジョアンナ・ヒブラヒムさん

ジョアンナ・ヒブラヒムさん

 「ブラジルは扉は開かれているが、入ってから窓が閉まっている」
 
 言い得て妙なこの言葉。ブラジルに難民として暮らす人々の率直な気持ちです。

 そんな中、シリア人女性のジョアンナ・ヒブラヒムさん(30)=ダマスカス出身=は今年4月、ブラジルで自らと同じような立場にある難民を支援する「Open tast」というプロジェクトを立ち上げました。運営会社は「Bab Sharki」(アラビア語で「太陽の扉」)といい、郷里ダマスカスの古代門の名前の一つということです。

 プロジェクトは名前の通り、ブラジルに暮らす世界各国からの難民がシェフとなり、それぞれの料理を振る舞うというものです。難民が飲食業で日々の生計を立てようと思っても、場所が借りられないなど、さまざまな課題に直面します。ジョアンナさんは、いろいろな人が集まれるような異文化交流も目的に、週1回、サンパウロ市内の若者が集まる通りの店舗を借り、難民のシェフが料理をサービスする店をオープンさせました。


サルサビルさん夫婦

サルサビルさん夫婦

 現在は毎週金曜日のみ、正午から午後10時まで営業しているOpen taste。これまで、アラブやアフリカ、ベネズエラの料理など、難民が出身地で食べていたなじみの料理を週替わりで手頃な価格で提供してきました。

 日常とは違う外国料理を食べたくて店に来る人もいますが、どちらかと言えば、いつもと違う料理を食べながら若者が集まりやすいという雰囲気にひかれて来る人も多いです。シリアから最愛の家族と離れた孤独を知るジョアンナさんだけに、人の集まる場を提供したいとの思いがよく感じられる場になっています。

 8月31日の金曜日は、シリア人夫婦の妻サルサビルさんが代表的なアラブ料理のケバブや鶏肉を使って中東でおなじみの薄いパンに巻いたサンドイッチなどをサービスしました。飲料もバラの水を使ったレモナーダやアラブ風のハーブティーといった、エキゾチックな香りを感じさせるものが選べました。

 「アラブ人は仕事が大好き!」というサルサビルさんのご主人。サルサビルさんとジョアンナさんと休むことなく厨房(ちゅうぼう)で動き続けます。


サルサビルさん夫妻のレシピのアラブの代表的なサンドイッチとバラの水を使ったレモネード

サルサビルさん夫妻のレシピのアラブの代表的なサンドイッチとバラの水を使ったレモネード

 「ブラジルは扉は開かれているが、入ってから窓が閉まっている」という表現は、難民や移民だけでなく、ブラジル人にも大なり小なり当てはまる部分があると、ブラジルで生活する人なら言うに違いありません。

 そういう意味で、難民や移民としてブラジルで生活をスタートさせた人も、ブラジルで産まれ育った人も、人によっては比較的サバイバルするためのハンディに大差はないかもしれません。本人のやる気と気力が人生の先行きを左右するとすれば、決して簡単に物事が進むわけではありませんが、希望の持てる社会といえます。


Open tasteが開かれている店

Open tasteが開かれている店

 2014年頃からブラジルで急増した難民がシリア人です。11年からの内戦を命懸けで逃れ、ブラジルに難民として認定された人々がサンパウロでもたくましく生き抜いて暮らしています。祖国を離れる体力、気力もあった20代から30代の若い世代が珍しくないのも特徴です(ブラジルは11年に16人だったシリア人難民が、14年には1326人が難民申請を行い、07年から17年の間にシリア人難民認定者数は2771人に増加し、ブラジルにいる各国の難民者数で最多を占めた)。

 日本人移民は半世紀以上ブラジルに暮らした人でもポルトガル語が上手にならないと言われる人が多いのとは異なり、シリア人(アラブ人)のコミュニケーションのための語学力は日本人とは比較にならないほどたけています。どこかの大学で勉強したわけでもありません。4年も暮らせばブラジル人を率いるだけの語学力まで身に付けている人も散見されます。


厨房で働くジョアンナさんとサルサビルさん夫婦

厨房で働くジョアンナさんとサルサビルさん夫婦

 新しい土地の言葉を話せれば仕事も幅が広がります。商人文化の土地から渡ってきた人ということもあってか、シリア人は雇われるよりは、語学教室、飲食業、その他自分で起業して一生懸命に働く若者たちがいます。男女を問いません。

 おそらく、100年以上前に社会が疲弊し、迫害を受けるなどしてオスマン帝国からブラジルに移民して今は裕福になったシリア人やレバノン人の子孫の先祖も同じようによく働いたに違いありません。ポルトガル語には「モウレジャール(mourejar)」という言葉があります。モーロ人(北アフリカのムスリムでアラブ人にも近い存在)のように休みなく一生懸命働く、努力するという意味ですが、このような言葉があること自体、古くからアラブ人は猛烈に働く人々だったに違いありません。

 日本ではなかなかピンとこない中東やシリアの人々、難民の存在ですが、働き者で、人をよく助けてフレンドリーな人が多いのが印象的で、それがより彼らの魅力を引き出しています。


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